平和都市モンゴリアンダイナマイト

映画の感想を1割と自分語り9割なので評価の参考にはなりませんが、読んで欲しい。 致命的ネタバレはしないように気をつけてます

激突!(1971)

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平凡なセールスマン中年がカリフォルニアの田舎道で謎のトレーラーに執拗に絡まれ、理由もドライバーの正体もわからないままに命を狙われる話

トレーラーはまるで舌なめずりをしたワニのような面構えで理不尽に襲いかかってくるし、主人公のおっさんの行動は全部裏目に出てどんどん追い詰められる。起こってることは非日常なんだけど、やたら感情移入しやすい主人公のリアクションの絶妙さ。超面白い。

 

両親は高校三年生の頃にフワッと離婚した。

俺が物心ついた時から両親の仲は悪くて、家族3人で外食に行った経験は2回しか覚えてないし、顔を合わせて笑ってる様子は本当に一度も覚えてない。

でも二人がセックスしたから俺がいるわけで、多分昔はそこそこの仲だったんだと思う。

親父は母より20近く年上で、お見合いで結婚したらしい。親父の容姿は若くて二人並んでもそこまで年の差は感じなかった。でも内面のギャップはどうしても埋まらなくて険悪になったのかな。金に対する考え方や料理の味の好み、さまざまな文化に対する目の向け方、全部二人は違った。まあどうでもいいんですけどね

そんなこんなで離婚しても大してびっくりしなかった。俺は母親と一緒に引っ越すことになった。親父は自営業で毎日深夜まで仕事をしていたし土日は働いていたので元々会う回数は少なかったけど、月に一度親父の家に泊まるという事になって、さらに減った。金曜日に夜遅くまで起きていても父に会えなくなった。

 

正直、母より父の方が好きだった。母はテレビでオタク文化に励む企業や年を取っても路上でドラムを趣味でやってるおじさんなんかを見るとすぐ「気持ち悪い」と言うし、警察24時が大好きだった。おれの趣味の話には何も興味を示さないし、飯の最中にはスマホをいじってた。タバコも大好きでトイレではいつも吸ってた。

親父は60代ながら幅広い話題になんでも、初音ミクから北朝鮮の動向までなんでも興味を示したし、それでもテレビのチャンネルは俺に絶対譲ってくれたし、タバコも俺が生まれた時に辞めたらしい。料理は母より下手で味がしょっぱくなりがちだったけど、毎回感覚より少し薄く作ろうと頑張っていた。

母の悪いところばかり書いたけど良いところもたくさんある。でも今は書く必要はないので書かない。親父の悪い部分も然りだが、親父に関しては悪い部分を思い出す気が起きない。

 

第2土曜日〜日曜日は必ずバイトを極力短くして親父の家に泊まりに行った。そして決まって、ジンギスカンを食べながら俺の持って行った映画のDVDを見るという流れだった。

ある時親父が「昔テレビでよくやってたスピルバーグのトラックの映画が観たい」と言い出す。

インターネット検索ですぐに「激突!」のタイトルを突き止めた。親父は最近のテクノロジーはすごいと感心していた。

 

親父が若い頃は映画なんて全然興味なくて、バイトに明け暮れる学生時代だったし社会人になった頃はちょうどバブルで遊びと株に明け暮れていたらしい。会社で行われたフィリピンのおセックス三昧旅行の話もしてくれた。映画という存在を特別気にしたことがない人生。そんな親父が特別みたいと言い出した「激突!」を早速レンタルしてきた。めちゃくちゃ面白くてびっくりした。

 

良い記憶というものは古ければ古いほど美化されていくものだけど、親父の中の古き良き名画「激突!」への期待は幸いにも叶えられたようだった。「色褪せない名作」の実感は18歳当時の俺には感じる術はなく、純粋に羨ましく思った。

「色褪せない名作」に味をしめた親父は再見希望他にも、あの頃観たかったけど結局観なかった作品やお昼のラジオでMCがオススメしていた作品をどんどんリクエストし出した。

 

離婚前の親父は余暇があれば母と金が足りない、支払いはそっちがやれの金問答か、母の仕事の愚痴に反論して火に油を注いでいる姿くらいしか観たことがなかった。

離婚、別居を経て俺と親父は会う時間が確実に少なくなったんだけど、多分離婚しなかったらここまで感情を共有したりすることはなかったんだろうなと思うし、親父がもう一度「激突!」に出会うこともなかった。

離婚後の親父の本気で困った顔は、アダルトサイトの架空請求ページが消えなくなって俺に助けを求めた時が最初で最後になりそう。

「激突!」は良い映画ですね。

 

結婚はしちゃダメ。